あやまちの匂いをかげ

私が彼女の家の居間で軽く夢を見かけたころ。
消滅する夏草のような面影で、
トマトフィジーは私の前を倒れた。
『私の思っていたのとは違っていたみたい』
それはそれぞれの理想とする二人のかたちや内容の違い、
繊細で絶望的な問題だった。
彼女の恋愛が魔法のように溶かされ(または こわれ)、
氷の溶ける温度で受話器は、
意地悪な貴公子の頬だった。
そのようにつめたく意味のない味に似ているなと思った。
彼のしあわせを呪うことすら愛情表現なのは、
トマトフィジーの胸の真ん中に哀しく咲く花の色みたいに赤く、
燃えてるよりも熱く空しいことだった。
『明日の自分の行方についてさえ分からないこの思考と身体が
彼一人だけに幾度でも恋愛を感じることができるかもしれない』のは、
現実とか幻想だとかとはまったく触れ合わない別の場所で、
情熱的だと言って許したい。

八月おしまいの

それは
『そんなことは言わない女の子だよ』
水のように
生まれつき光を持った言葉や
芸術的なまぶたの切れ方がいい、
君に恋愛を感じてもらった、
この夜は明日につながらず独立した一個の時間の塊になったのに、
幾度思い起こしても激しい直情の一瞬かも知れなかった。
私は君に愛情を持って接すると決めたあの昔を誇って、
もう眠りたい。
それはそれはお花畑のようにまあるい明るさの中、
あやまちの匂いの届かない場所で、
悪い夜風は流れない。